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医療分野における3Dプリンティング:放射線治療用のオーダーメイドのボーラスおよびシールド

医療分野における3Dプリンティング:放射線治療用のオーダーメイドのボーラスおよびシールド
導入の背景
従来はシリコーンを手作業で切断し製作していたが、解剖学的構造に完全に合致せず空気の隙間が生じ、放射線の線量分布に課題があった。また、複数金型の鋳造による従来のマスク製作も費用や時間が膨大で、精度向上と効率化が急務となっていた。
導入の効果
患者の画像データから高精度な型を迅速・低コストで造形可能となり、空気の隙間を防止して標的への照射被覆率が大幅に向上した。位置決め構造の付与や機器の遠隔監視も実現し、患者への負担軽減と病院側の治療計画の最適化を同時に達成した。
目次

3Dプリンティングは、デジタルモデルから3Dオブジェクトを迅速かつ低コストで製造できることから、さまざまな産業に革命をもたらしました。柔軟な製造技術の急速な進歩やバイオメディカル分野における革新に伴い、3Dプリンティングは現在、インプラントの設計、手術計画やトレーニング、義肢など、医療用途で広く活用されています。

造形には、ポリカーボネートなどの熱可塑性プラスチックをはじめ、半柔軟性プラスチック、優れた強度と耐候性を備えたABS、あるいは時間の経過とともに人体内でも生分解されるPLA(ポリ乳酸)などが使用できます。

放射線治療は、高線量の放射線を用いてがん細胞を破壊し腫瘍を縮小させる、腫瘍学における第一線の治療法の一つです。強度変調放射線治療(IMRT)など最新技術の進歩により副作用は軽減されていますが、これらの手法は複雑なため、治療前の綿密な計画と安全性の確認が不可欠となります。

この分野において、3Dプリンティングは以下の用途でオーダーメイド装置の製造に活用されています。

  • 照射範囲の調整

  • 3次元適合放射線治療(3D-CRT)

  • 近接照射療法(※腫瘍やその周囲に放射性物質を埋め込み、直接高線量を照射する内部放射線療法)の実施に必要な装置

オーダーメイドの「ボーラス」と「シールド」の製造

特に重要な用途が、患者一人ひとりの解剖学的構造に合わせた「ボーラス」および「シールド」の製造です。

  • ボーラス: 照射時に人体組織と同等の放射線特性を持つ素材で作られ、患部に直接配置することで皮膚表面および皮下の線量を調整・最適化します。

  • シールド: 健康な組織や器官を不要な被ばくから保護します。

従来手法との比較(導入メリット)

従来は熱可塑性樹脂製のマスク等を作成するため、複数の金型を鋳造する必要があり、費用・時間・労力が多大にかかっていました。一方、熱可塑性ポリウレタン(TPU)やシリコーンなどの素材を用いた3Dプリント製シールド・ボーラスは、既存のCTやMRIデータから、患者に負担をかけることなく簡単かつ費用対効果高く作成できます。

導入事例:アムステルダム大学医療センター(AMC)

アムステルダム大学医療センターの放射線治療科では、「健康な細胞への影響を最小限に抑えつつ、腫瘍を効果的に消失させること」を目標に、Raise3D社の「Pro2シリーズ」3Dプリンターを活用しています。

臨床医であり、現場で日常的に本機を使用しているAtilla Erogluer氏に、活用の実態と導入効果について伺いました。

【インタビュー】Raise3D Pro2の活用現場と導入効果

—— 2019年の初めからRaise3D Pro2を使用されていますが、具体的にどのような用途で活用されていますか?

Erogluer氏 当科では、患者の皮膚上に配置して最大線量が皮膚表面のすぐ下に集中するように設計する「ボーラス(シリコーン製のフラップ)」を作成しています。Pro2 3Dプリンターを使って患者一人ひとりに合わせたカスタム金型を3Dプリントし、その金型にシリコーン材料を流し込んで硬化させることでボーラスを製造しています。

—— 3Dプリンター導入前は、どのようにボーラスを製作していたのでしょうか?

Erogluer 導入前は、シリコーン素材のフラップを手作業で切り出していました。しかし、それではボーラスが患者の皮膚にぴったりとフィットせず空気の隙間が生じてしまい、線量分布の観点から好ましくありませんでした。また、配置が複雑で、常に同じ厚さになってしまう課題もありました。現在ではそうした問題は解消され、空気の隙間を防ぎ、ボーラスを使用しない場合と比較して標的の被覆率が向上しています。

—— カスタム金型による製造以外にも、3Dプリントの利点はありますか?

Erogluer ボーラス上に「クロススレッド」や「ISOC位置」といった特定の構造を描き込める点です。これにより、レーザーラインを活用して患者の体内でボーラスをさらに正確に位置決めできるようになります。また、カスタムアプリケーターを作成することで、固有の解剖学的構造に合わせて治療をきめ細かく調整できるようになりました。

機種選定の理由と運用のメリット

—— 数ある装置の中で、なぜRaise3Dのプリンターを選んだのですか?

Erogluer 「信頼性の高さ」「広い造形領域」「高速な造形速度」の3つが大きな決め手です。患者さんを待たせるわけにはいかないので、常に安定して動く信頼性は不可欠です。また、胸部用などの大きなボーラスの型を分割せずに一度で造形するには広いビルドエリアが必要ですし、治療開始の2〜3日前にデータが届いてから迅速にテンプレートを仕上げるためのスピードも欠かせません。さらに、ネットワーク経由での遠隔操作やウェブカメラによる進捗確認ができる点も、運用面で非常に重宝しています。

未来に向けた3Dプリンティング

—— 今後、医療現場において3Dプリンティングをどのように展開していく予定ですか?

Erogluer 現在はボーラスの「型」を造形していますが、将来的には非常に滑らかで柔らかい素材を用いて、ボーラスそのものを直接造形したいと考えています。

また、体内で照射を行う「近接照射療法」への活用も目指しています。小さな放射性源を正確な位置に配置するため、患者の組織に細いチューブ(カテーテル)を挿入しますが、3Dプリンターを使えばさまざまなカテーテルを挿入できる型を造形することが可能です。患者と病院の双方に利益をもたらす開発計画を、今後も進めていきます。

(※なお、院内のメンテナンス部門ではすでに3Dプリンターが導入されており、機器の交換部品の造形などに活用されています。)

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